ニュースレター

OpenAI はどれだけのデジタル労働者を展開できるのか?

原題:How many digital workers could OpenAI deploy?

Gradient Updates は著者個人の見解を述べるニュースレターで、Epoch AI 全体の見解とは限りません。

AIが爆発的な経済成長をもたらしうるという議論の核心は、AIの「デジタル労働者」の数を劇的に増やせるという点にある。成長は労働力に制約されているので、労働力を急速に拡大すれば成長率は大きく加速する、という考え方だ。

ここでAIが登場する。人口を毎年2倍にすることはできないが、AIチップの数なら2倍にできる。NVIDIA や OpenAI で実際に見てきたとおりだ。1 したがって、AIが人間の労働者を完全に代替できるなら、労働力は今日の何倍もの速さで増えうる。その結果、経済も何倍もの速さで成長しうる。

この捉え方が正しいなら、爆発的成長までどれだけ遠いかを知るには、三つの問いに答える必要がある。第一に、今日、AIの「デジタル労働者」をどれだけ展開できるのか。第二に、AIは人間の労働者を完全に代替するまでにどれだけ遠いのか。第三に、そのどちらも時とともにどう変わっているのか。

この記事では、第一の問いに挑んでみる。今日のAIがこなせるタスクに限って言えば、フロンティアAI研究所はそこに「人間換算のデジタル労働者」をどれだけ展開できるのか。

推測を多く含む概算ではあるが、OpenAI のような企業は、700万人程度のデジタル労働者を展開できるだけのハードウェアを持っていると推定される。90%信頼区間は40万人から約3億人と幅広い。2 これは、OpenAI が今日700万人の人間の従業員の仕事をこなせるという意味ではない。AIは人間を完全には代替できないからだ。しかしAIの進歩が続くにつれ、人間がいま行っているタスクのうち、AIがこなせる割合はますます増えていく。

フロンティア研究所が展開できるデジタル労働者の数を推定する

では、この700万という数字はどこから来たのか。米労働統計局に「AI従業員数」のページがあるわけではない。そこで、フロンティア研究所でAIを動かすことでどれだけの「仕事」がなされているのかを、何らかの方法で割り出す必要がある。

私たちの方法は、AIが1日に処理するトークン数と、人間の労働者が読み、考え、書くことで1日に「処理」する実質的なトークン数とを比べるというものだ。この二つの比をとれば、AIが現在こなせるタスクに限ったデジタル労働者の数が得られる。

したがって最初の一歩は、フロンティア研究所が1日に何トークンを生成しているかを割り出すことだ。具体的に考えるため、OpenAI の GPT-5 を取り上げよう。

一つの方法は、OpenAI の推論実行用の計算資源の規模を見ることだ。The Information の報道に基づくと、同社はモデルの実行用に現在約48万基のH100換算(H100e)を持っていると考えられ、3 これは1日あたり約 FLOP に足りる。4 GPT-5 が1トークンを生成するにはおそらく1,000億〜6,000億FLOP程度かかるので、5 1日あたり約10兆〜100兆トークンということになる。

別の方法として、利用統計も直接見てみる。ChatGPT は約40億件のメッセージを1日に送っている可能性が高い。6 API経由の利用が ChatGPT のトークン数の4分の1に相当する分を上乗せし、メッセージの平均長が4,000トークンだとすると、GPT-5 は1日に約20兆トークンを生成していることになる。

最終的な計算では、この二つの方法による予測を単純に混合し(不確実性を表すため信頼区間付きで)、中央値は1日約19兆トークンとなった。これは Google のAIモデルが生成する1日35兆トークンと同程度なので、おおむね妥当な水準だろうと考えている。7

トークン数が分かったので、次はこれを「人間換算のデジタル労働者」に換算する。要するに、人間の従業員は1日に実質何トークンを「処理」しているのか。

話す語数や書く語数を見ることもできる。しかしそれではおそらく過小評価になる。人間は話したり書いたりするよりずっと多くのことを考えているからだ。そこで代わりに、人間の思考速度である毎分約380語を基準にする。これをトークンに換算し、1人が1日8時間働くと仮定すると、人間の労働者1人は1日に約24万トークンを処理していることになる。

この数字を見ると、「GPT-5 は1日に19兆トークンを出力し、人間1人は約24万トークンを処理するのだから、デジタル労働者は 19兆 / 24万 = 8,000万人いる」と言いたくなる。しかしこれは、人間の1トークンが GPT-5 の1トークンと同じ価値を持つと仮定しており、それは正しくないかもしれない。

そこで別の方法として、METR の研究に基づく方法を考えられる。この研究は、人間がこなすのに一定の時間がかかる(ソフトウェア関連の)タスクをAIがこなせるかどうかを調べている。たとえば、ある特定のプログラムをデバッグするタスクがあり、人間のプログラマーは通常1時間で終えるとする。そこで、GPT-5 が同じタスクをこなすのに何トークン必要かを調べ、それに1日の労働時間を掛けて、人間の1日分の仕事に見合うのに必要なトークン数とする。METR のタスクの場合、GPT-5 は通常10万〜100万トークンを使うので、8時間の労働日では80万〜800万トークンになる。19兆をこれで割ると、デジタル労働者は240万〜2,400万人となる。

この二つの方法を組み合わせると、デジタル労働者の推定値は中央値で700万人となるが、信頼区間は非常に広い。8

この数字から何が分かるか

700万人のデジタル労働者というのは大きな数だ。比較すると、世界最大の雇用主の従業員数は210万人である。この推定値は、これまでの方法とはかなり異なる。たとえば一部の研究は、計算資源の保有量を人間の脳の計算能力で割ってデジタル労働者の数を推定している。9 OpenAI が1日に FLOP を処理できる計算資源を持ち、人間の脳を動かすには FLOP/s が必要だとすると、労働者数は約10万人となり、私たちの推定値の約500分の1になる!10

もちろん、先にほのめかしたように、700万人の労働者がいまにも職を失うと結論するのは誤りだ。現在のAIシステムは、人間ができるタスクのすべてをこなせるわけではないからである。11 人間とAIは得意分野が異なり、現時点では、AIがどれだけ推論計算を使ってもこなせないタスクの多くを人間はこなせる。しかしAIの進歩が続くにつれ、AIが人間を代替するタスクの範囲はどんどん広がり、私たちの計算方法はより直接的な意味を持つようになる。少なくとも、AIの経済的影響の下限としては意味を持つ。AIはどの人間にもこなせないタスクもこなせるようになるからだ。12

特に、ソフトウェアエンジニアやリモートワーカーの仕事を含め、世界経済のタスクのかなりの部分を自動化できるほどAIが優秀になったとしよう。デジタル労働者の数が同じままだったとしても、その影響はかなり大きなものになりうる。AIがこなせるタスクでは、AIはたいてい人間よりはるかに安くこなせる。たとえばソフトウェアエンジニアがあるコードのデバッグに1時間かかるとすると、その人には50〜100ドルが支払われるかもしれない。しかし GPT-5 が同じタスクをこなせるなら、費用は1〜10ドルで済む。13 これほど大きなコストの差があれば、自動化されたタスクでは人間ではなくAIを使う強い動機が生まれ、数千万人の労働者の仕事に影響が及ぶ可能性がある。

さらに、何百万ものデジタル労働者を並列に展開し、現実世界でのやりとりから学ばせ、得た知識を共有させることができれば、AIシステムは人間よりはるかに速く知識を蓄積できる。したがって、AIが足りないスキルをごく短期間で身につける可能性がある。

一方で、この700万人の労働者は経済全体から見ればまだ微々たるものだ、という反論もありうる。世界の労働人口はなお2桁大きいので、これでは爆発的成長をもたらすには足りない。現在の計算資源の保有量と自動化のコストのもとでは、人間を完全に代替できるAIがあったとしてもこれは当てはまる。

しかし、より極端なシナリオの可能性を指摘する人々もいる。こうしたデジタル労働者を主にAI研究開発に集中させれば、AIの進歩が大きく加速し、デジタルなAI研究者の数がさらに増え、それがまた……という具合に進みうるというのだ。700万人の労働者は世界規模で見れば少ないが、それでもおそらく、現在の世界のAI研究者の数よりはかなり多い。14

このように、私たちの推定値が持つ意味は、いくつかの要因しだいでかなり大きく変わりうる。AIがより多くのタスクをどれだけ速く自動化するのかを知る必要がある。今後数年でデジタル労働者を動かすための計算資源がどれだけ増えるのか、そして研究者がその計算資源を推論実行でより効率的に使えるようになるのかを知る必要がある。さらに、爆発的な経済成長やソフトウェアによる知能爆発のような力学がどれほど起こりそうかも知る必要がある。こうした問いは、今後の号で取り上げていく。

この記事に意見をくれた Lynette Bye に感謝する。

注

注
  1. たとえば OpenAI の計算資源への支出は、2024年半ばの60億ドルから2025年半ばには130億ドルに増えた。ただし、この伸び率は鈍化する可能性もある。 ↩

  2. 分析の完全なコードはこちらにある。 ↩

  3. 具体的には、The Information の報道に基づき、同社の計算資源の総保有量は現在約110万基のH100換算であると推定しており、その90%信用区間は約80万〜140万基のH100換算としている。このうち約44%が、学習や実験ではなく推論実行に使われる。 ↩

  4. この値はいくつかの仮定に基づく。第一に、推論実行は、対応するハードウェア(例:GB200)ではFP4で、それ以外(例:H100)ではFP8で行われると仮定する。第二に、推論実行時の利用率を約5%〜30%と仮定する。これは一部、Llama 3.3 と DeepSeek-R1 の利用率についての私たちの推定に基づく。計算の全体はコードにある。 ↩

  5. GPT-5 のアクティブパラメータ数は500億〜3,000億と推定しており、アクティブパラメータ1つあたり2 FLOP とすると、1トークンあたり1,000億〜6,000億FLOPとなる。 ↩

  6. 2025年6月のChatGPT の1日あたりメッセージ数は26億2,700万件で、1年前の4億5,100万件から増えた。これは年 2627 / 451 = 5.8倍の伸び率に相当し、2025年9月までに1日約40億件になると予想される。 ↩

  7. 2025年7月、Google のAIモデルは月に980兆トークンを処理したと報じられた。1日あたり約35兆トークンである。 ↩

  8. 二つの方法を組み合わせる理由の一つは、GPT-5 の1トークンが「人間のトークン」いくつ分に当たるのかがはっきりしないことだ。これはタスクによって大きく異なりうる。たとえば翻訳では、GPT-5 は、思考時間から見積もった人間の必要量よりはるかに少ないトークンで済む。そのため、1対1の比率や、METR の研究にあるようなタスクにあまり強く依拠したくない。 ↩

  9. 大まかなレベルでは、推論実行用の計算資源の規模を実行時の計算コストで割る形になっているので、これは正しい。しかし実際にはもっと複雑になりうる。たとえば GATE モデルでは、実行時に必要な計算量はタスクによって大きく変わりうる。 ↩

  10. もちろん、私たちの方法も、この計算量に基づく方法も、不確実性が非常に大きい。たとえば、脳が実際に何FLOP/sの処理をしているのかを特定するのは難しい。 ↩

  11. AIシステムがどれだけ速く実行されるかといった細部も省いている。 ↩

  12. こうした能力向上の一つの側面は長いコンテキストを要するタスクであり、これはデジタル労働者の数の推定に影響しうる。たとえば、長いコンテキストでのデコード(プリフィルは除く)は、通常メモリ帯域幅がボトルネックになる。私たちの分析ではこれは計算資源の利用率の低下として表れるが、より精緻な方法なら、AI Futures が AI 2027 の報告書で試みたように、研究所のメモリ帯域幅の総保有量を直接モデル化することもできる。推論実行の効率が改善しても、そうなる場合がありうる。 ↩

  13. これは先に挙げた METR のタスクの例に基づく。人間なら1時間かかるタスクに GPT-5 が10万〜100万トークンを要するとすると、出力100万トークンあたり10ドルで、合計1〜10ドルになる。 ↩

  14. フロンティアモデルで行われる研究に限れば、なおさらそうである。たとえばフロンティアAI研究所の従業員数を合計すると、おそらく1万人程度になる。これだけでも私たちの推定値より何桁も小さく、しかも従業員の全員が研究者ではないので、実際の数はおそらくさらに少ない。 ↩

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非公式の日本語訳公式ページ(英語):epoch.ai/gradient-updates/how-many-digital-workers-could-openai-deploy