レポート
ロボットの生産はどれほど速く拡大しうるか?
原題:How Fast Could Robot Production Scale Up?
今後数年のうちに、ロボットの能力が大きく飛躍したとしよう。ヒューマノイドロボットや移動マニピュレータが、人間にできる手作業の大半をこなせるようになる。潜在的な市場は巨大である。何十億もの人々が肉体労働に従事しており、人間の労働者の何分の一かのコストでその代わりを務められるロボットには、ほぼ無限の需要があるだろう。
しかし、ロボットは物理的な物体である。ソフトウェアはほぼ瞬時に複製して展開できるが、ロボットは1台ずつ、実在の部品から、実在の工場で、実在の労働者が製造しなければならない。たとえ能力が一夜にして飛躍しても、生産が追いつくには時間がかかる。
では、どれだけの時間がかかるのか。本稿の目的は、この問いに答えようとする人々の役に立つ数字を出すことである。取り上げるのは、ヒューマノイド、四足歩行ロボット、ロボットアーム、車輪型ロボット、ドローンの5つの形態である。ロボティクスの将来には、まだ大規模には存在しない形態や、異なる種類のロボットが連携する群れが関わるかもしれない。それでも、既存の形態についての本稿の分析は、そうした世界でもなお役に立つと考える。
この問題には2つの角度から取り組む。第一に、参照クラスを調べる。現在、ロボットの生産はどれほどの速さで伸びているのか。また過去に、突然の需要ショックに見舞われたとき、生産はどれほどの速さで拡大したのか。第二に、実際の制約を調べる。ロボット工場を建てるには何が必要か。ロボットを大規模に生産しようとしたら、どの部品が最初に足りなくなるのか。
本稿には補足資料が付いている。そこでは、基礎となるデータ、方法論、そして関連はあるもののここに載せるには細かすぎる検討の筋道を扱っている。大半の段落から、その資料の該当箇所に直接リンクしている。
ロボットがさらに多くのロボットの製造を手伝う再帰的な自己改善の問題は、おおむね脇に置く。この力学はいずれ決定的に重要になるだろう。有能なヒューマノイドは、さらに多くのロボットの組み立てを手伝い、工場の建設を加速し、さらなる改善に必要な学習データを生み出せるからである。しかし、この力学が効いてくるのはもう少し先、有能なロボットがすでに大量に展開されてからである。そこで本稿では、そうなる前の生産の状況を取り上げる。再帰的な自己改善(RSI)が最初にどこで効いてくるかについての考えを、補足資料でいくつか概説している。より広く言えば、超知能AIが規模拡大を指揮したら状況がどう変わるかをモデル化することも試みない。代わりに本稿では一貫して、普通の人間のエンジニア、管理者、工場労働者が物事を動かしていると仮定する。
主な結果:
- 2025年のロボットの生産量は、ヒューマノイドが約1万6,000台(6か月ごとに倍増)、四足歩行ロボットが8万1,000台(10か月ごとに倍増)、ロボットアームが57万台(8年ごとに倍増)、車輪型ロボットが3,300万台、ドローンが1,600万機と推定する。ヒューマノイドの伸びは急速だが、ごく小さく特殊な基数から出発しているので、四足歩行ロボットやほかのより確立した形態の倍増の速さのほうが信頼できる。
- 第二次世界大戦の動員やウクライナ戦争後のドローン生産のような過去の需要ショックでは、最も比較しやすい事例で、生産の伸び率が1.4〜2.2倍に加速した。これを当てはめると、倍増期間は四足歩行ロボットで約5〜8か月、成熟した形態で約10〜16か月になる。これらの事例がロボティクスにとって楽観的な見通しにあたるのか悲観的な見通しにあたるのかは、はっきりしない。
- 新しい工場の建設には、中国では最短で6〜9か月(ただし通常は10〜12か月)、大半の西側諸国では2年以上かかる。これが、少なくとも初めのうちは、ロボット生産の急速な拡大の遅れを決める。新しい工場が稼働するまで、生産量は現在のトレンドを大きく上回っては伸びられない。
- ロボットの部品の大半は、生産を縛る制約にはならない。主な例外は高精度減速機である。これが現在、ヒューマノイドの生産を年約50万台(現在の生産量の約30倍)、四足歩行ロボットの生産を年約75万台に抑えている。ただし、サプライチェーンが需要に応じるにつれ、これらの上限は今後数年で上がると考えている。
ロボット生産の拡大についての参照クラス
ロボット生産の現状
大半の形態で、ロボットの生産は指数関数的に伸びており、全区分の平均の倍増期間は約3年である。ただし、ばらつきは大きい。ドローンや車輪型ロボットのような確立した形態は、指数関数をやや下回るトレンドで、よりゆっくり伸びている一方、新しい形態ははるかに速く拡大している。
| 形態 | 2025年の生産量 | 倍増期間(2022〜2025年のトレンド) |
|---|---|---|
| ヒューマノイド | 約1万6,000台 | 6か月 |
| 四足歩行ロボット | 約8万1,000台 | 10か月 |
| ロボットアーム | 約57万台 | 98か月(約8年) |
| 車輪型ロボット | 約3,300万台 | 42か月(約3.5年) |
| ドローン | 約1,600万機 | 33か月(約2.7年) |
ヒューマノイド。ヒューマノイドの6か月という倍増期間は目を引くが、いくつかの理由で、信頼できるトレンドとは読みにくい。第一に、絶対数がごく小さい。数百台から数千台に増やすときは、50万台から100万台に増やすときよりも、速い倍増のペースを保つのがはるかに容易である。第二に、現在のヒューマノイドの購入の大半は、生産的な用途によるものではない。今日のヒューマノイドの大半は本当に役に立つ仕事をあまりこなせないので、需要の大半は研究やマーケティングのためのものであり、将来の用途を代表していない。そのため、現在の状況はおそらく特殊である。
とはいえ、このトレンドがまったく証拠にならないわけではない。ヒューマノイドは、同じような初期段階にあった多くの製品より速く拡大している。また、現在の規模はまだ小さく、高度に自動化された生産ラインへの投資や最適化されたサプライチェーンもまだあまりない段階にある。需要がそれを必要としてこなかったからである。ヒューマノイドが役に立つようになるにつれ、こうした投資が行われ、現在の伸びのトレンドが続く可能性がある。
四足歩行ロボット。四足歩行ロボットのトレンドはより信頼できる。点検、警備、監視の用途に牽引され、生産量は数千台から約8万1,000台に増えた。中国のメーカー(世界市場シェア約40%のUnitreeが筆頭)は、Boston Dynamicsと比べて価格を90%以上引き下げており、入門用の四足歩行ロボットは現在約1,600ドルで手に入る。
ロボットアーム。ロボットアームは最も古く、最も成熟した区分であり、生産量は年約57万台で、特に電子機器と自動車の製造に牽引されている。1990年代にはすでに年に数十万台近くが生産されていた。伸びは安定しているが緩やかである。これは新興市場ではなく、確立した市場なのである。とはいえ、この区分も再加速と無縁ではない。2010年代には、長い停滞のあと、中国の製造業の拡大が新たな成長の波を生んだ。
ドローンと車輪型ロボット。ドローン(年約1,600万機)と車輪型ロボット(年約3,300万台、大半はロボット掃除機)は大規模に生産されている。伸びはより漸進的だが、どちらも特定の分野で最近急増している。ウクライナ戦争による軍用ドローンと、前年比300%超で伸びているロボット芝刈り機である。これはロボットアームに起きたことと似ている。
これらの生産トレンドを2031年まで単純に外挿すると、ヒューマノイド約7,500万台、四足歩行ロボット約2,400万台、ドローン約3億1,200万機、車輪型ロボット約5億9,300万台という世界になる。四足歩行ロボット、ドローン、車輪型ロボットの予測は、監視、配送、物流で現在行われている試験的な取り組みが成功すれば、ありそうに思える。ヒューマノイドの外挿は、現在の伸び方がおそらく特殊なので、はるかに推測的である。
需要ショックのあと、生産はどれほど速く拡大しうるか?
前の節では、現在の生産トレンドを外挿したら何が起きるかを見た。しかし私たちが知りたいのは、ロボットの能力がある閾値を越え、非常に幅広いタスクで極めて役に立つようになったら何が起きるかである。そうなれば巨大な需要ショックが生じ、資本は実質的に制約ではなくなるだろう。
過去の参照クラス。そうした条件のもとで生産がどれほど速くなりうるかの感覚をつかむため、突然の外的ショックによって複雑な物理的製品の急速な増産を迫られた過去の事例を調べた。
| 事例 | 年間生産量の伸び倍率(前→後) |
|---|---|
| 米国の戦闘機(第二次世界大戦) | 年1.25倍 → 年2.8倍 |
| 米国の戦車(第二次世界大戦) | 年2.57倍 → 年4.47倍 |
| ソ連の戦車(第二次世界大戦) | 年1.32倍 → 年1.91倍 |
| 米国の合成ゴム(第二次世界大戦) | 年約1.0倍 → 年4.65倍 |
| 世界のFPVドローン生産(ウクライナ戦争による) | 年1.11倍 → 年1.32倍 |
| 米国+EUの砲弾(ウクライナ) | 年約1.0倍 → 年1.7倍 |
第二次世界大戦の事例は、自動車工場が軍用車両の生産に転換されるなど、国の経済全体の向け先が変えられた様子を示している。これにより、生産は何年にもわたって大きく伸び、需要の信号が消えた途端に急減した。合成ゴムの事例では、政府が巨額の資本を投じても、戦時の切迫した状況のもとでほぼゼロから産業を築くのに4年かかったことが分かる。ウクライナのドローンの事例は逆の方向を示す。FPVドローンの生産は、当初は従来型の工場設備をもたない職人的な工房から始まり、年200万機超にまで増えた。補足資料には、人工衛星、GLP-1受容体作動薬、新型コロナウイルス流行期の需要ショックなど、より遠い参照クラスも追加で載せている。
ここからロボット生産について何が言えるか?これらのさまざまな事例から、需要ショックは生産の伸びをおよそ1.4〜2.2倍加速しうること(ショックの前後で年間生産量の伸び倍率を比べた場合)、そして基礎にある需要が本物で持続する限り、加速した伸び率は何年も保てることが分かる。現在のロボティクスの基準値に当てはめると、同程度のショックがあれば、アーム、車輪型ロボット、ドローンのような成熟した区分は倍増期間10〜16か月に、四足歩行ロボットは倍増期間5〜8か月に達しうる。
これらの伸び率を具体的にするため、単純化したシナリオを考えよう。現在のトレンドが続き、2027年末に需要ショックが起きるとする。ヒューマノイドは、現在の特殊なペースから減速し、2027年末までに倍増期間がおよそ9か月になると仮定する。その時点で、現在のトレンドではヒューマノイドの生産は年約20万台、四足歩行ロボットの生産は年約50万台になる。参照クラスの加速を3年間当てはめると、2030年末までに、ヒューマノイドは年約1,000万〜3,000万台、四足歩行ロボットは年1,500万〜6,000万台という範囲になる。ドローンと車輪型ロボットはより大きな基数から出発するので、年1億5,000万〜6億台に達しうる。
これらの参照クラスをどう読むべきだろうか。一方で、私たちが想定している種類の需要ショック、すなわち肉体労働の大部分を置き換えられるロボットの登場は、経済的な規模では表のどの事例よりもはるかに大きいかもしれない。メーカーはより多くの資本を動員でき、あらゆるボトルネックを素早く解消するより強い動機をもつので、生産はより速く伸びうる。他方で、戦時の事例は、政府が権限を使って産業全体の向け先を変えられるという点で特殊である。
いずれにせよ、これらの参照クラスからは、増産を具体的に何が制約するかは分からない。過去の事例は、この規模の伸びが物理的に達成可能であることを示唆するが、ロボットではどの部品や工場の生産能力が制約要因になるのか、さらに速い伸びを実現できるのか、できるならどうやってか、は教えてくれない。そこで、内部視点(インサイドビュー)に目を向ける。
内部視点:実際の制約は何か?
たとえ資金に糸目をつけず、需要が無限だとしても、ロボットを生産するには、それを動かす労働者を擁する工場と、上流のサプライヤーから調達する物理的な部品(モーター、減速機、センサー、ねじ)が必要である。そのどれもがロボット生産のボトルネックになりうる。
工場の建設
大半のロボットは工場なしには作れず、工場の建設にはそれなりの時間がかかる。工場を作るには建物そのものを建てる必要があるが、それ以上に大事なのは、中に生産ラインを立ち上げることである。精密機器を設置して適格性を確認し、工程を開発し、労働者がそれを操作できるようにしなければならない。
工場の建設にはどれだけの時間がかかるか?Teslaの上海工場は、着工から車の試験生産まで8か月だった。自動車の組み立ては、ほかの大半の種類の工場より機械的にヒューマノイドの組み立てに近いので、これは比較的良い参照点の一つである。需要が巨大で資金に糸目をつけないと仮定すれば、中国ではおそらく6〜9か月が妥当な数字である。中国の外では、同等の事業に通常2年以上かかる。
既存工場の改修。既存の自動車工場の改修が最も役に立つのは、更地からの新設に2年以上かかる西側諸国である。米国では、組み立てラインの全面的な改修を6〜10か月で行える。たとえば、Fordのルイビルにある300万平方フィートの工場は、8〜10か月で内燃機関車からEVの生産に転換した。更地からの新設がすでに6〜9か月で済むこともある中国では、改修の利点はより小さいようである。
工場と労働者はどれだけ必要か?AgilityのRoboFabがおおまかな目安になる。7万平方フィートの工場で現在年約150〜500台のヒューマノイドを生産しており、年1万台という目標を掲げている。この目標はやや誇張されていて、実際の数字はその60%だと仮定すると、年1平方フィートあたり約0.09台のヒューマノイドという密度になる。これは、年1平方フィートあたり約0.1台を生産する自動車工場と同程度である。四足歩行ロボットの生産でも、たとえばAbbott Roboticの工場で同程度の密度が見られる。
RoboFabの範囲から逆算すると、ヒューマノイドを年1,000万台(2025年の数字の600倍)生産するには、約1億1,000万平方フィートが必要になる。これは、TeslaのテキサスのGigafactory規模の施設およそ20か所分の面積である。Tesla Gigafactoryの建設には2,000人の人員が必要なので、合計で4万人の労働者になる。
建設したあと、これらの工場には人員を配置する必要がある。電池のギガファクトリーでは、操業時の人員は建設時の人員とほぼ同じである(つまり、さらに4万人)。自動車工場では、操業時の人員は建設時の2〜3倍に近い(つまり8万〜12万人)。RoboFabは7万平方フィートで500人のスタッフを予定している。これを外挿すると自動車工場の範囲をやや上回るが、規模の経済は考慮していない。全体として、妥当な作業仮定は4万〜12万人の労働者のあいだのどこかである。これらの職の大半は高度な技能を必要としないので、訓練は1年ほどの建設期間と並行して進めることが現実的にできるだろう。
要するに。ヒューマノイドや四足歩行ロボットの新しい生産能力が稼働するまでの避けられない遅れは、中国では6〜9か月、西側で更地から新設する場合は2年以上である。ただし、既存の自動車工場を改修すれば6〜10か月に縮められる。ドローンと車輪型ロボットはここでの制約が小さく、特にドローンは、専用の工場ラインがなくても拡大できることを実証している。初めの遅れを越えたあと、ロボット生産を拡大するには、多数の生産ラインを並行して動かす必要がある。ヒューマノイドを年1,000万台生産するには、Tesla Gigafactory規模の施設がおよそ20か所必要になる。これには約4万人の建設労働者に加え、施設の完成後にそれを動かす4万〜12万人の操業スタッフが必要になる。
部品の調達
工場が十分にあっても、そこを満たす部品が必要である。ロボットに使われる主な部品について、現在の世界の生産量のデータをまとめ、形態ごとの1台あたりの必要数と比べた。表の上限は理論上の最大値であり、各部品の世界の供給をすべてロボット生産に振り向けると仮定している。実際には、これらの部品はほかの市場にも供給されており、その市場が消えてなくなるわけではないので、現実の上限はこれより低い。以下の表には、ヒューマノイドと四足歩行ロボットの上限の推定値だけを示す。基礎となる年間生産量、ロボット1台あたりの部品数、出典は、ドローンや車輪型ロボットのようなほかの形態についての対応する数字とともに、部品表の完全なスプレッドシートに載せている。
部品の3つの階層
大半の部品は生産を縛る制約にはならない。カメラ(年70億個)、MEMSセンサー(年310億個)、ベアリング(年数百億個)、電池(年20億kWh)、配線(年3,000万トン)は、いずれもロボット生産の10倍、さらには100倍の増加も難なく吸収できる規模で生産されている。ヒューマノイドを年100万台生産しても、ロボットによるカメラの需要は、現在のカメラの生産量の0.1%に満たない。
ほかの一部の部品は、生産量が多くなると問題になる。サーボモーター、遊星ローラねじ、トルクセンサー、高分解能エンコーダは、ヒューマノイドの生産が年数百万台になると制約になりうる。これらの部品は、高精度減速機(後述)に比べると生産のボトルネックになるまでの余裕が大きい。また、製造についての公開データは乏しいので、本稿の生産量の推定はおそらく下限である。
各部品の既存の世界の供給をすべてロボットに回すと仮定した場合に、年に何台のヒューマノイドと四足歩行ロボットを支えられるか。
| 部品 | ヒューマノイドの上限 | 四足歩行ロボットの上限 |
|---|---|---|
| 遊星ローラねじ | 1,500,000 | — |
| リードねじ | 2,500,000 | — |
| ボールねじ | 2,500,000 | — |
| トルクセンサー | 1,250,000 | 2,500,000 |
| 高分解能エンコーダ | 1,250,000 | 2,500,000 |
| モーションコントローラ | 3,750,000 | 7,500,000 |
| サーボモーター | 4,545,000 | 10,000,000 |
減速機は、生産を縛る制約に最も近い。減速機は、モーターと関節のあいだに入る機械部品である。モーターは速く回るが、生み出すトルクは小さい。減速機は速度をトルクに換え、小さなモーターで重い手足を持ち上げられるようにする。ヒューマノイドには主な関節(股関節、膝、足首、肩、肘、手首)ごとに1つずつ必要なので、設計にもよるが、ヒューマノイド1台には通常20〜40個の減速機が入っている。
各種の減速機の既存の世界の供給をすべてロボットに回すと仮定した場合に、年に何台のヒューマノイドと四足歩行ロボットを支えられるか。
| 部品 | ヒューマノイドの上限 | 四足歩行ロボットの上限 |
|---|---|---|
| 遊星減速機 | 500,000 | 750,000 |
| サイクロイド減速機/RV減速機 | 500,000 | — |
| 波動歯車減速機 | 1,000,000 | 1,500,000 |
高精度減速機には主に3つの種類がある。遊星ギアボックス(太ももなど荷重を受ける関節に使う)、サイクロイド減速機/RV減速機(肘によく使う)、波動歯車装置(小型で、手首や指など空間の限られた関節に使う)である。生産の上限を決めているのは、遊星ギアボックス(年約300万個)、サイクロイド減速機/RV減速機(年約200万個)、そして程度は下がるが波動歯車装置(年約1,200万個)である。ヒューマノイド1台あたり遊星減速機6個、サイクロイド減速機4個とすると、現在の生産量では、ヒューマノイドの生産は年約50万台が上限になる。
ロボット1台あたりにもっと多くの減速機が必要になったら?本稿の部品表のロボットは低価格帯から中価格帯のもので、非常に器用な手は目指していない。逆の方向に進んでいるメーカーもある。Teslaの現行世代のOptimusは片手に約50個のアクチュエータを備えており、業界の十分な部分がその水準の複雑さに収斂すれば、ロボット1台あたりの減速機の需要は本稿の基準の3倍以上になりうる。さらに、指用の減速機はほかの関節に使う減速機よりはるかに小さいので、ハーモニックドライブの既存のサプライヤーの生産能力では足りないかもしれない。
ただし、これが急速な拡大をどれほど深刻に妨げるかははっきりしない。近いうちに需要を牽引する可能性が最も高い用途、たとえば物流、倉庫、軽工業の製造などは、手の完全な器用さを必要としない。さらにロボティクスでは、ソフトウェアの進歩がハードウェアの限界を補う例がたびたび見られてきた。たとえばPhysical Intelligenceは、単純なグリッパーだけで高精度のタスクを達成している。
減速機の生産はどう拡大しうるか?減速機の生産は意味のある規模で拡大しうる。精密減速機は半導体ではない。公差はナノメートルではなくマイクロメートル単位で測られ、減速機の生産にはクリーンルームも要らない。太陽光発電やEV用電池などほかの産業と同じように、既存のサプライチェーンは、低い利益率を受け入れて積極的に投資する中国のメーカーによってすでに揺さぶられている。サプライヤー、組み立てメーカー、顧客が中国の同じ製造業集積地に集まっているので、地理的に分散した日本の既存企業よりはるかに速く改良を重ねられる。
基準シナリオでは、減速機の生産量が2028年までに2倍、2030年までに4倍になるのが妥当な下限であり、現在の拡張計画とも整合する。これで、2030年までにヒューマノイド年約150万〜300万台を支えるのに足りる。需要ショックのもとでは10〜30倍の増加もありえ、ヒューマノイド年500万〜1,500万台を支えられる。減速機は生産を縛る制約であり続けるかもしれないが、その上限の絶対値は現在よりはるかに高くなる。
まとめ
以上をすべて踏まえると、今後1〜2年のうちに巨大な需要ショックが起きた場合、そうした規模拡大の3年後にはどれほどの生産量が妥当と思えるだろうか。これらの数字の誤差範囲は広いが、明らかに達成可能と思えるものと、物事が際立ってうまく進む必要があるものを区別しておくと役に立つ。
時期を具体的にするため、2027年末に巨大な需要ショックが起きるとしよう。そのうえで、2030年末までに世界がどれほどの年換算の生産量に達しうるかを問う。ショック後の拡大期間はわずか3年ほどであり、ヒューマノイドと四足歩行ロボットについては実質的に2年に近い。新しい工場の生産能力が稼働するには時間がかかり、上流の部品のボトルネックが大きく緩み始めるのは最初の1年ほどが過ぎてからだからである。ドローンと車輪型ロボットは専用の工場への依存が小さいので、より速く対応できる。
ヒューマノイド。2つの主な制約、すなわち工場の建設と減速機の供給は、やはり並行して解決しなければならず、どちらにも現実の遅れがある。需要ショックが2027年末に起きれば、2028年の大半はロボットの生産ではなく生産能力の構築に費やされる。したがって、2030年末までといっても、ヒューマノイドを全速力で生産できる期間は実際には2年ほどしかない。この時間軸では、2030年末までに年換算で150万〜300万台の生産は明らかに達成可能と思われる。減速機の生産能力が積極的に拡大し、何波にもわたる工場の建設が予定どおり完了すれば、年500万〜1,000万台もありうる。年1,500万台を超えるには、特に減速機の面で物事が異例なほどうまく進む必要があり、おそらく非常に器用な手ではなく、簡素な設計にする必要もある。全体として、これらの数字は、参照クラスの分析から得た1,000万〜3,000万台という範囲よりやや低い。
四足歩行ロボット。四足歩行ロボットはヒューマノイドより製造が簡単である。既存の生産基盤がより大きく、小型の精密減速機をそれほど多く必要としない。2030年末時点で年200万〜500万台は明らかに達成可能と思われ、年800万〜1,500万台が中心的な推定として妥当に思われる。2,000万台もありうるが、それはすでに減速機の拡大で支えられる範囲の上限に近い。
ドローン。最終的に主な部品の制約になるのはプロペラ、そしておそらくチップだが、プロペラは精密減速機よりはるかに拡大しやすい。また、ウクライナで見たように、ドローンは専用の巨大工場ができる前から増産できる。そのため、需要ショック後の最初の1年の生産ははるかに機敏に反応する。2030年末時点で年1億〜2億機は、特に厳しい限界に突き当たることなく達成できそうである。年3億〜5億機は野心的だが、物理的にはありうる。年10億機には、わずか3年でプロペラの生産を非常に大きく拡大する必要があり、中心的なシナリオとしてはやはり難しそうである。
本稿で扱わなかった重要な力学は、ロボットがロボットを作ることである。ロボットアームはすでにほかのロボットの製造を手伝っており、ヒューマノイドが有能になった世界では、工場をより速く建てるのを手伝い、部品の生産を加速し、能力をさらに高めるのに必要な学習データを生み出せるだろう。この再帰的な力学は、少なくとも最初の数回の生産の波のあとには、上で述べた時間軸を縮めるだろう。これがどのように起こりうるかについての初期の考えを補足資料でいくつか概説しているが、今後の分析の重要なテーマとして扱いたい。
本報告とあわせて、Metaculusと協力してロボティクスの将来についての予測問題のシリーズを公開した。これらのトレンドがどこへ向かうかについて意見があれば、ぜひ参加してほしい。
謝辞
有益なフィードバックをくださったAmelia Michael、Benjamin Alt、Daniel Kokotajloの各氏に感謝する。この研究の一部、特に部品の節の着想のもとになったアイデアを提供してくださったRomeo Dean氏に感謝する。本研究は、Girish Sastry氏からの寄付によって資金提供を受けた。