論文

GATE:AIと自動化の行く末をモデル化する

原題:GATE: Modeling the trajectory of AI and automation

はじめに

ここ数年の大規模言語モデルの急速な進歩と普及を受けて、人工知能(AI)が今後の経済をどう形づくるかについて、幅広い議論が起きている。その中心にあるのは、AIが経済成長を大きく加速させるのか、AIがどれほどの投資を呼び込むのか、その投資の時期と規模はどうなるのか、そして自動化がどれほどの速さで労働市場を変えるのか、といった問いである。

この議論を前に進めるため、私たちは Growth and AI Transition Endogenous(GATE)モデルを公開する。GATE は機械学習と経済成長理論の概念を組み合わせ、AI開発、タスクの自動化、そしてその先に生じるマクロ経済的な影響について、主要な力学を示すものである。土台としているのは、学習と推論実行(インファレンス)の両方について計算資源の拡大と性能の関係を表す経験則であるスケーリング則と、経済成長を科学の進歩を生む研究開発(R&D)の成果として説明する理論である半内生的成長理論である。モデルの技術的な説明はホワイトペーパーにある。

論文とあわせて、インタラクティブモデルも公開する。このツールでは、AI開発と経済成長についてさまざまなシナリオをシミュレーションできる。モデルのパラメータを変え、経済とAI開発の主要な変数がどう推移するかを可視化できる。AIによる自動化の行く末を左右する主要な仮定とパラメータの一部をこのツールで明示することで、AIの経済的影響をめぐる議論がより透明になることを期待している。

GATEを試す

GATEについて

GATE は、アルゴリズムの進歩、計算資源を中心に据えたAI開発の見方、研究開発投資の収益、CMOSプロセッサの効率の根本的な限界の推定について、私たちが長年続けてきた研究をまとめたものである。これまでの研究では一貫して、計算資源の拡大とアルゴリズムの効率がAIの進歩の中心的な原動力であることが示されてきた。GATE はこの知見を中核に据えている。計算資源の増加とアルゴリズムの継続的な飛躍がAIの能力を直接高め、より幅広い経済的タスクの自動化を可能にする。この自動化が経済成長を加速させ、その一部がさらなるAI開発に再投資される。こうして、計算資源・イノベーション・成長のあいだに強力なフィードバックループが生まれる。

GATE モデルには3つの中核的な構成要素がある。

計算資源。計算インフラへの投資によって、AIシステムの開発と運用に使える計算資源が増える。さらに、ハードウェアとソフトウェアの研究開発への投資によって、ハードウェアとAIアルゴリズムの効率が上がる。

自動化。導入済みの計算能力の一部はAIの学習に充てられる。スケーリングに関する研究の知見どおり、より多くの計算量で学習したモデルほど、より多くのタスクを自動化できる。さらに、推論モデルに見られるように、推論実行で使う計算量を増やすことでも、より多くのタスクを自動化できる。このモデルは学習と推論実行の両方のスケーリングを組み合わせ、より多くのタスクを段階的に自動化していくことが可能かどうか、またそのコストはいくらかを決める。

生産。推論実行に割り当てられた計算資源は、自動化可能なタスクをこなす大量の「デジタル労働者」を動かすのに使われる。このデジタルな労働力が人間の労働、資本、天然資源と組み合わさって経済的な産出を生み、その一部が資本とAI開発に再投資される。投資と計算資源の配分という上位の意思決定は、代表的家計の生涯効用を最大化する社会計画者が担う。1

GATE の各モジュールには現実的な特徴が組み込まれており、AIが牽引する経済成長について、もっともらしいシナリオを生成できる。たとえばAI開発モジュールは、研究開発投資の収穫逓減や、計算インフラを急速に拡大する際の調整費用を捉えている。利用者はインタラクティブモデルで、ハードウェア効率の改善ペースやアルゴリズムの飛躍の大きさといった主要な仮定を調整し、さまざまなシナリオを探ることができる。

さらに GATE には、2つの要素を調べるためのオプションの構成要素もある。1つは投資家の不確実性で、これは巨額の先行投資を妨げうる。もう1つは研究開発の外部性で、イノベーションの便益が競合他社や経済全体へ波及することを指す。これらの構成要素は、現実世界の摩擦がAIによる自動化の行く末にどう影響しうるかを示すのに役立つ。

わかりやすい概要はモデルの解説を、詳しい技術的な説明はホワイトペーパーを参照してほしい。

予備的な知見

この最初のバージョンのモデルは、AIの経済的影響をめぐる重要な問いを探るのに役立つ。ただし、その結果がどれほど頑健かは、まだ確かめている最中である。ここでは、GATE の挙動を検証するなかでこれまでに分かった、特に興味深い点をいくつか紹介する。これらは今後さらに調べる必要のある初期の結果であることに留意してほしい。近いうちに、GATE の予測をより詳しく検討する技術論文の続編を公開する予定である。

AIへの巨額の投資。GATE の予測では、世界の計算資源供給への投資は世界のGDPの10%を超える可能性があり、これは現在の水準のおよそ50倍にあたる。この投資は、AIが価値を生むより先に行われる。経済主体が、いずれタスクが自動化されれば莫大なリターンが得られると見込むからである。AIによる自動化の時期を早めることへの誘因が非常に大きいため、当初は経済的な産出をほとんど生まないのに、多くの資源が従来型の資本から計算資源関連のインフラ(半導体工場、データセンターなど)へ振り向けられる。

計算資源の大幅な拡大。ハードウェアとソフトウェアの研究開発の収益が控えめであるといった保守的な仮定のもとでさえ、このモデルは一貫して、世界経済が20年以内にほとんどのタスクを自動化するのに十分な実効計算資源を動員できると予測する。なお、計算資源とイノベーションが十分に蓄積されれば、どんなタスクも最終的には自動化可能になると仮定している点に注意してほしい。

大規模な経済成長。GATE モデルの予測では、AIによる自動化によって経済成長は大きく加速し、自動化が進む期間の成長率は、近年の歴史的な平均である年約3%の2〜20倍に高まる。自動化が進むにつれて成長率は着実に上がり、自動化の水準が高くなると加速は特に劇的になる。経済内のタスク間の補完性によって生産のボトルネックが生じても、こうした劇的な経済的利得は実現する。この利得は、AIシステムが経済的タスクのより大きな割合を段階的に自動化していくのにつれて、およそ10年をかけて現れる。

注意しておきたいが、GATE はAIとその経済的含意の理解を大きく前進させるものだと私たちは考えている一方で、このモデルにはまだ大きな限界がある。たとえば、AI以外の技術の進歩はモデル化していない。それを含めれば、経済成長はさらに速くなるだろう。逆に、身体を持たないAIがあらゆるタスクで人間の労働を完全に代替できるとも仮定しているが、実際にはロボットなどの追加の設備が必要になる可能性が高い。そのため、現実離れした予測も一部に出てくる。たとえば、パラメータを既定値にすると、モデルは世界の経済的産出の20%(年間20兆ドル近く)を即座にAI開発へ割り当てる。モデルの限界についての詳しい議論はホワイトペーパーにある。

こうした限界があるため、モデルの結果を正確な定量的予測として解釈することは勧めない。むしろこれらの結果は、AIの分野で今後展開される可能性が高い主要な力学の一部を定性的に描いたものとして扱うのが最もよい。AIのモデル化に関する今後の研究で、こうした力学がどれほど頑健かを検証する。

結論と今後の予定

GATE モデルは、AIによる自動化が今後どう進みうるか、そしてマクロ経済にどんな影響を与えうるかを体系的に探るための、計算資源を中心に据えた枠組みである。

このアプローチは、AIへの投資、技術の改善、労働の自動化のあいだの相互作用についての理解を大きく前進させるものの、重要な限界がいくつか残っている。

今後数か月のうちに、研究者をはじめとする GATE の利用者と協力し、モデルのより重要な限界に優先順位を付けて対処していく予定である。モデルの力学と予測についての詳細な技術的分析も公開する予定である。研究者の方々には、ぜひ議論に参加し、フィードバックを寄せていただきたい。連絡先は info@epoch.ai である。

この取り組みはすでに始まっている。綿密なレビューをしてくださった Ben Golub 氏と Ryan Greenblatt 氏に感謝する。また、議論に加わりフィードバックをくださった Chad Jones 氏、Tyler Cowen 氏、Anton Korinek 氏にも感謝する。

注

注
  1. モデル内の、投資と計算資源の配分という上位の意思決定は、勾配降下法によって解いている。タスクごとの推論実行用計算資源、人間の労働、資本、土地の配分は解析的に解いている。↩

← 論文・レポート一覧へ

非公式の日本語訳公式ページ(英語):epoch.ai/publications/announcing-gate