ニュースレター

AIがもたらす価値の大半は、研究開発ではなく幅広い自動化から生まれる

原題:Most AI value will come from broad automation, not from R&D

Gradient Updates は著者個人の見解を述べるニュースレターで、Epoch AI 全体の見解とは限りません。

AIが今後経済に及ぼす影響は、主に研究開発(R&D)をAIで自動化することによってもたらされる、という見方が広く支持されている。形はさまざまだが、この見方は業界の影響力ある人物の多くが表明してきた。

  • Dario Amodeiは、エッセイ「Machines of Loving Grace」で、AIがうまくいくシナリオで、AIが人類に恩恵をもたらす五つの道筋を挙げている。そのうち三つは、生物学の研究開発、神経科学の研究開発、経済学の研究開発である。研究開発を加速させ、ひょっとすると経済の統治を改善することとは別に、経済全体に幅広く導入されることによってAIが高い経済成長率をもたらす、とはっきり論じている箇所はどこにもない。

  • DeepMindのCEOであるDemis Hassabisも、AIが社会に恩恵をもたらす主な経路として研究開発に強気である。最近のインタビューでは、それが起こりうる具体的な仕組みを挙げている。AIがあらゆる病気を治し、「エネルギー問題を解決する」というのだ。「根本的な豊かさ(radical abundance)」の可能性にも触れているが、研究開発という経路以外に、それが実現しうる道筋は一つも挙げていない。

  • Sam Altmanは、エッセイ「Three Observations」でもっと穏当な立場をとり、AIはある意味でトランジスタのようになるかもしれない、つまりうまく規模を拡大して経済の隅々に浸透する大発見になるかもしれない、と明言している。それでも彼でさえ、科学の進歩に対するAIの影響は「他のすべてを凌駕する」可能性が高いと特記している。

全体として、この見方は厳密な経済学的議論に何ひとつ裏づけられていないのに、驚くほど影響力を持っている。本号では、この見方が誤りである可能性もきわめて高いことを論じる。

研究開発は一般に、人々が思っているほど経済的価値が大きくない。生産性の向上と新技術が長期的な成長に不可欠であることは確かだが、こうした過程に対する明示的な研究開発の寄与は、一般に考えられているより小さい。さらに、その寄与の大部分でさえ外部に及ぶもので、研究開発を行う企業の利益にはならない。そのため、そもそも研究開発を行うシステムを導入する動機が弱まる。この二つが合わさる結果、実際にはほとんどのAIシステムは研究開発とは無関係なタスクに導入されてそこで収益を上げ、合計で見ても、そうしたタスクのほうが経済的価値も大きくなる。

また、研究開発の仕事を自動化するのは、素朴に考えるよりもかなり難しい。研究者の仕事に含まれるタスクの大半は「推論タスク」ではなく、エージェントとして自律的に動く能力、マルチモーダル性、長いコンテキストにわたる一貫性といった能力に決定的に依存しているからだ。研究者の仕事を完全に自動化できるところまでAIの能力が達すれば、経済の他のほとんどの仕事も自動化できるようになっているはずだ。そして先に述べた理由から、そのほうが研究開発だけを狭く自動化するよりもはるかに大きな経済的価値を生む可能性が高い。

この二点を合わせると、将来のどの時点でも、AIの経済的価値の大半が研究開発から生まれると考える理由はない。はるかにありそうなシナリオは、AIの価値が経済全体への幅広い導入によって生み出されるというものだ。規模に関する収穫逓増によって、それが生産性と1人当たり産出量の増加につながることは予想すべきだが、その増加の大部分はおそらく明示的な研究開発からは生まれない。

AIの主な経済的影響は、労働を幅広く自動化できることにある

この節では、関連しているが微妙に異なる二つの主張を切り分けたい。一方には私たちも同意し、もう一方には同意しない。

  • 研究開発を完全に自動化でき、その目的だけに使われる技術があれば、それは非常に価値が高く、おそらく経済成長率を年に少なくとも数パーセントポイント押し上げるだろう。私たちはこの主張は正しいと考えており、これに反論するのは難しい。

  • 現実の世界でも、そうした技術の社会的・経済的に最も価値ある用途は、実際に研究開発の自動化になるだろう。私たちが異を唱えるのはこちらの主張である。研究開発には価値があるが、AIが関連するすべてのタスクで人間の能力を超える前であれ後であれ、AIによる経済的価値や成長の恩恵の大半が研究開発から生まれるとは考えにくい。

二つ目の主張に異を唱える私たちの議論を理解するには、まず研究開発の実際の経済的価値を測る必要がある。研究開発が経済的価値を生む主な経路は生産性の向上だとわかっている。したがって、研究開発の影響を定量化するには、過去の労働生産性の伸びのうち、どれだけが研究開発支出とそれに伴う波及効果によるものだったかを問えばよい。米国労働統計局の推定によれば、1988年から2022年にかけて、民間企業が資金を出した研究開発は、米国の全要素生産性(TFP)の伸びのうち年約0.2%分にしか寄与していない。同じ期間のTFPの伸び全体は年約0.8%、労働生産性の伸びは年約1.9%であった。

米国経済では、公的な研究開発支出は研究開発支出全体の約4分の1にすぎないが、その分だけ正の外部性が大きいとも予想できる。Fieldhouse and Mertens(2023)は、この二つの効果がおおむね相殺し合うと推定している。つまり、米国では公的な研究開発も平均してTFPの伸びの4分の1を担っており、米国のTFPの伸びに対する研究開発の寄与は合計で年約0.4%、つまり全体の半分ほどになる。それでも、1988年以降の米国の労働生産性の伸びのうち、研究開発支出によるものは20%にすぎないということになる!

この期間の労働生産性の伸びの約半分は資本深化によるもので、残りの大部分は、経営の改善、実践による学習(learning-by-doing)、知識の普及など、生産性の他の源泉で説明される。研究開発で説明できる部分として残るのは、「成長のパイ」全体の大きさに比べれば小さな寄与であり、しかもその研究開発でさえ、多くは研究者以外の投入物、たとえば技術機器や実験設備を必要とするかもしれない。

民間の研究開発がTFPの伸びに寄与する割合についての私たちの推定は、経済が実際に投資を研究開発と資本蓄積にどう配分しているかとも、おおむね一致する。少なくとも、TFPの伸びを生む他の要因の多くには直接投資しにくく、研究開発と資本形成のどちらもどの時点でも同じくらい急な収穫逓減に直面している、と仮定すればそうなる。資本深化が生産性の伸びの50%を占め、民間の研究開発が10%を占めるのだから、資本投資は研究開発投資のおよそ5倍になると予想できる。そしてこの直観は正しいことがわかる。米国は資本投資に年約5兆ドル、民間の研究開発に合計で年約1兆ドルを費やしている。

では、研究開発が比較的取るに足りないものだとすれば、成長を加速させるには実際にAIシステムをどこに導入すべきなのか。最もわかりやすい経路は、人間の労働を幅広く自動化することである。米国経済では産出の労働弾力性が約0.6で、これはおそらく「産出の研究開発弾力性」の約5倍にあたる。さらに、幅広い労働への支出は、明示的な研究開発に投じられる労働への支出の約20倍にのぼる。直観は単純だ。最大の経済的価値を生みたいなら、現在の経済で最も多くのお金が支払われているものを自動化すべきであり、そうなると労働は明らかに注力すべき対象になる。その結果として生まれるはるかに大きな経済は、産出を資本に再投資し、正式な研究開発以外の多くの経路、たとえば実践による学習を通じて、TFPの伸びを加速させられるだろう。全体として、これが規模に関する収穫逓増を生み、ひいては経済成長を加速させる、と考える十分な理由がある。その成長率は、ひょっとすると現在の10倍かそれ以上に達するかもしれない。

この見方への反論は、データでは研究開発の成長効果が過小評価されている、というものである。資本投資に比べて研究開発への支出が少ないのは、大きな正の外部性と、研究開発での強い「重複による非効率(stepping-on-toes効果)」が組み合わさった結果だというのだ。こうした議論は先験的にありえないものではない。しかし、TFPが重要と思われる他の多くの理由で地域や時代によって異なる以上、研究開発だけでTFPの伸びの大半を説明できると定量的に論じるのは難しいように思える。加えて、Bloom et al.(2020)のような影響力ある論文にならい、TFPの伸びは完全に研究開発の投入によって生じるという裏づけのない仮定を置いたとしよう。それでも、そのパラメータ推定値から得られる産出の研究開発支出弾力性は約0.3で、資本とほぼ同じ、労働の半分にすぎない。

まとめると、現在の経済成長の大部分は研究開発から生まれているわけではなく、AIがこのパターンを逆転させると確信するには、説得力のある理由が必要である。よく持ち出される理由は二つある。一つは、AIシステムが自らの研究開発を自動化する可能性があるため、AIにとって研究開発は特に重要だというもの。もう一つは、研究開発のタスクは一般にAIにとって易しく、そのため経済の他の部分よりかなり早く自動化されるというものだ。私たちはどちらの理由にも説得力がないと考えており、以下の節でその理由を説明する。

AIの研究開発の自動化だけでは、AIの進歩はおそらく劇的には加速しない

研究開発のより広い経済的価値は予想していたほど大きくないが、それでも研究開発の自動化が支配的な効果になりうると考える、AIに特有の理由がある。AIシステムが自らのソフトウェアの研究開発の過程を自動化できるなら、ソフトウェアだけによるシンギュラリティが起こりうるかもしれない。一定量の計算資源の上でAI研究者を動かし、自分たちのアルゴリズムを改善する方法を探させる。それによってさらに多くの仮想研究者を動かせるようになり、ソフトウェアがいっそう進歩する、という具合だ。

このフィードバックループがどれほどありそうかは、ソフトウェアの効率を高める方向へ進歩するにつれて「アイデアがどれだけ速く見つけにくくなるか」に決定的に左右される。私たちは以前の研究で、いくつかのソフトウェア分野についてこの効果の大きさを定量的に推定し、研究者の労力が研究開発の唯一の投入物であるなら、ソフトウェアだけによるシンギュラリティが起こる確率はおよそ五分五分かもしれない、と結論づけた。しかし、ソフトウェアの研究開発を何桁も進歩させることが研究者の労力だけでできる、という鍵となる仮定は、議論の土台を担っているうえに、誤っている可能性が高い。

よりもっともらしいモデルは、研究の進歩には認知的な労力とデータの両方が必要で、二つの投入物の間にある程度の補完性があるというものだ。これを裏づける事実として、さまざまなソフトウェア分野のうち、実験用計算資源の拡大が最も速く、ソフトウェアの進歩も最も速いのはAIであり、どちらも現在年3〜4倍程度である。この一致は、実験用計算資源を使ってデータを生成することが、少なくともソフトウェアの進歩にとって重要であることを示唆している。ただし、これだけでは、それが研究者の労力とどの程度補完的な投入物なのかはわからない。

二つの投入物が本当に補完的なら、ソフトウェア主導の加速は、計算資源がボトルネックになり、さらに実験を行うためにGPUを増やすという物理的な作業をせざるをえなくなるまでしか続かない。もちろんAIはこの過程も加速しうるが、それは半導体のサプライチェーン全体に、さらにおそらくは、この産業が必要とする投入物を他から供給するために経済のもっと幅広い分野にまで、AIが広く導入された場合に限られる。

ボトルネックが効いて止まるまでに、ソフトウェアだけによるシンギュラリティが何桁分続きうるかは、AIの研究開発で実験と洞察がどれだけ強く補完し合うかに決定的に左右される。残念ながら、この重要なパラメータについて、私たちの知る限りよい推定値はない。しかし、経済の他の部分では無視できない補完性があるのは普通のことであり、AIの研究開発の場合に何が成り立ちそうかを評価する際にも、それを参考にすべきである。一例を挙げると、Oberfield and Raval(2014)は、米国製造業における労働と資本の代替弾力性を0.7と推定している。この程度の補完性でもすでに十分強く、どんな「ソフトウェアだけによるシンギュラリティ」も、効率が1桁改善しないうちに立ち消えになる。

研究開発の過程にボトルネックがあることを支持するもう一つの証拠は、すでに研究開発のかなりの部分を自動化してきたのに、科学の進歩に劇的な加速が見られないことである。たとえば、ほとんどの研究開発に必要なプログラミング作業は、最初は専門的なライブラリの開発によって、最近ではコーディングを加速するLLMベースのツールによって、絶えず自動化されてきた。また、身体的な労力を省く研究機器も、時代とともに数多く発明されてきた。しかし、これらのどれも研究開発の進歩の爆発を生まなかった。むしろ恩恵はかなりわずかなものにとどまった。これは、研究開発のタスク同士にかなり強い補完性があるという筋書きと整合する。これは研究開発の労力全体と実験との補完性について直接教えてくれるものではないが、事前の見込みに織り込むべきもう一つの証拠である。

こうした証拠はどれも質が低いため、AIの研究開発が、主要な投入物間の代替弾力性が1以上になる経済の中の珍しい部分である可能性は排除できない。その場合、補完性は十分に弱く、原理的にはシンギュラリティが起こりうる。しかし、データのある他の事例と比べると、そうした予測には慎重になるべきだろう。基本的には、ソフトウェアだけによる、あるいはソフトウェアに偏ったシンギュラリティは、ありそうな結果ではなく、ありそうにない結果として扱うべきである。

研究開発を完全に自動化するには、非常に幅広い能力が必要である

一見すると、科学者の仕事は抽象的な推論、つまりアイデアを出し、仮説を立て、データを分析し、コードを書き、数学的に推論することに大きく依存しているように思えるかもしれない。もしそうなら、科学研究者は近い将来、推論モデルに取って代わられる危険が最も高い職業の一つだということになる。こうしたタスクこそ、現在の推論モデルで最も自動化しやすそうに見えるタイプのタスクだからだ。

そのような世界では、AIが小売業の従業員、不動産業者、IT専門職など、より一般的な仕事を担うために経済全体に幅広く導入されるより前に、AIが研究開発を大きく加速させることになる。要するに、AIは「まず科学を自動化し、それから他のすべてを自動化する」ことになる。

しかし、この構図はおそらく誤っている。実際には、ほとんどの研究開発の仕事は抽象的な推論能力をはるかに超えるものを必要とする。例として医学研究者を考えよう。以下は、職業調査O*NETから取った医学研究者の職務タスクの一覧で、職業にとっての重要度の順に並べてある。私たちは各タスクに、抽象的な推論能力だけで遂行できると一般に考えられるかどうかでラベルを付けた。ここでいう抽象的な推論能力とは、報告書の執筆、コーディング、定理の証明などを含め、純粋に言語的・論理的・数学的な能力だけを必要とすることを意味する。

重要度タスク抽象的な推論で自動化できるか
92汚染を避けるため、有毒物質を扱う際に厳格な安全手順に従う。❌ いいえ
91薬物、ガス、農薬、寄生虫、微生物の影響をさまざまなレベルで評価する。❌ いいえ
87人間や動物の疾患、予防法、治療法を調べる研究を計画・指揮する。❌ いいえ
87毒性、細菌、微生物を特定したり、細胞構造を調べたりするために、臓器・組織・細胞の試料を調製・分析する。❌ いいえ
82薬の用量、予防接種の方法、医薬品や薬用化合物の製造手順を標準化する。✅ はい
78医療に応用するための方法論・機器・手順を開発する研究を行い、データを分析して結果を発表する。❌ いいえ
78医師、研修医、学生、技術者に、医学の原理や医療・検査の手順を教える。✅ はい
77動物と人間の健康や生理的過程を研究する。❌ いいえ
75科学誌に論文を執筆・発表する。✅ はい
75研究助成金の申請書を書く。✅ はい
73疾患や寄生虫の原因、進行、生活環、感染経路を調べる。❌ いいえ
70原子吸光分光光度計、電子顕微鏡、フローサイトメーター、クロマトグラフィー装置などの機器を使う。❌ いいえ
67保健当局、業界関係者、医師などと協議し、健康安全基準や公衆衛生改善プログラムを策定する。✅ はい
60物理学、生物学、化学の医学への応用について、医師、教育者、研究者などに相談に乗り助言する。✅ はい

この14のタスクのうち、抽象的な推論だけで遂行できると私たちが見積もったのは6つにすぎない。注目すべきことに、医学研究者にとって最も重要な上位五つのタスクのうち、抽象的な推論だけに頼ると分類したのは一つだけだった。全体として、この仕事の最も重要な部分には、実地の技術的スキル、他者との高度な連携、専門機器の使用、長いコンテキストを扱う能力、複雑なマルチモーダルの理解が必要なようだ。

このパターンは、他の一般的な研究職にも当てはまる。それを示すため、私たちはGPT-4.5を使い、一般的な研究開発職12種のタスクを三つのカテゴリーのいずれかに分類させた。抽象的な推論能力だけで遂行できるとGPT-4.5が考えるか、(身体がその場にいる必要はないが)複雑なコンピューター操作のスキルを必要とするか、タスクを完了するのに身体がその場にいる必要があるか、の三つである。方法と結果は、GPT-4.5とのこちらの会話を参照してほしい。

このグラフは、科学研究が実際に何を伴うのかについて、より細やかな構図を示している。研究は主に抽象的な推論のタスクだという想定とは逆に、実際にはその多くが物理的な操作や高度な自律性を伴う。研究開発を完全に自動化するには、AIシステムはおそらく、コンピューターのGUIを自律的に操作し、人間のチームと効果的に連携し、長い期間にわたる非常に複雑なプロジェクトをやり遂げるための強い実行機能を持ち、実験を行うために物理的な環境を操作する能力を必要とする。

だが、AIがこうした多様な能力を高い水準で完全に発揮できる段階に達するころには、より定型的な仕事の広い範囲がすでに自動化されている可能性が高い。これは、AIが「まず科学を自動化し、それから他のすべてを自動化する」という考えと矛盾する。むしろ、よりもっともらしい予測は、AIによる自動化が、研究開発を完全に担える水準に達する前に、非常に幅広い産業にわたって一般の労働力の大きな割合をまず自動化する、というものである。

科学上の大発見から始まって、のちに他の分野へ広がっていくAI革命を予想するのではなく、まず自動化が従来型の仕事の大部分を担う初期の時期があり、科学技術の大幅な加速は、AIが現実世界の仕事の厄介で複雑な要求を使いこなせるようになって初めて続く、と予想すべきである。

AIが研究開発を完全に担うようになった後でさえ、AIが科学技術を加速させるのは、研究開発の研究者を直接置き換えることによってではなく、主に研究開発以外のタスク(さまざまな研究開発の実験が依存するインフラの構築など)を大規模に自動化することによってだと予想するのが妥当である。先に述べたとおり、明示的な研究開発が現在の経済成長全体のごく一部しか占めていないことを考えれば、この予想は理にかなっている。

AIのテイクオフは、おそらく広範で目に見えるものになる

以上の議論を合わせると、AIが経済や技術に変革的な影響を及ぼし始める前でさえ、その影響は、AIのテイクオフを描いた多くの筋書きよりもはるかに広範で目に見えるものになる可能性が高い。ここでいう広範とは、AIによる自動化が研究開発の職業に狭く限定されるのではなく、広く起こって経済の大きな部分を変えるという意味である。また目に見えるとは、その影響がほとんどの人にはっきり見え、たとえば大規模に労働を置き換えるなど、きわめて破壊的なものになるという意味である。

さらに、AIが世界に変革的な影響を及ぼし始めた後でさえ、以上の議論からすれば、明示的な研究開発の自動化がそうした影響に果たす役割は小さいものにとどまる。こうした影響を主に支えるのは、経済全体にわたるより幅広い自動化である。

今後数年のAIのテイクオフが、研究開発に取り組む「データセンターの中の天才たちの国」という形をとると想像するよりも、次のような別の構図を思い描くほうがよいと私たちは考える。

  1. AIの進歩は今後数年にわたり、AIが遂行できるタスクの範囲を少しずつ広げ続ける。この進歩を主に可能にするのは、純粋に認知的なAIの研究開発の取り組みではなく、計算インフラの規模拡大である。
  2. その結果、AIは経済全体に幅広く導入され、ますます広い範囲の労働タスクを自動化する。最終的に、これは経済成長の大幅な加速に至る。
  3. AIが世界に変革的な影響、つまり経済、医療、その他の技術の爆発的な進歩を引き起こす時点より前に、世界の労働市場とAIに対する世間の見方を根本から作り変える、きわめて破壊的な自動化の波がすでに何度も押し寄せている。
  4. AIが経済、医療、技術の進歩を有意に加速できるようになった時点以降も含め、どの時点においても、AIがこれらそれぞれを加速させる主な経路は、研究開発以外のタスクを大規模かつ広範に自動化することである。

加速を支える鍵となる力が、AIが得意とする何か特定のことではなく、AIによる自動化の幅広さと規模であることを強調するために、この構図を「全般的な自動化の爆発」と呼んでもよいだろう。ただし、この言葉が「知能爆発」ほど人目を引かないことは認めざるをえない。

要点

この見方は、ビジネス、政策、個人のそれぞれの観点から、AIの未来にどう向き合うべきかについて重要な示唆を持つ。

第一に、ビジネスの観点からは、当面の間、AI企業にとっては、生物学や医学などの分野で研究者を狭く支援できる「ノーベル賞受賞者」級の推論モデルの開発に注力するよりも、ありふれた仕事のタスクを自動化しようとするほうが儲かるだろう、と私たちはみている。たとえば、インターネットを的確に閲覧し、業務用ソフトウェアを操作し、標準的なホワイトカラーの職務タスクをこなせるコンピューター操作エージェントの開発である。また、こうしたありふれた能力のほうが、研究開発タスクでのAIの性能よりも、追跡しベンチマークで測る対象として重要になる可能性が高いと考えている。

第二に、政策の観点からは、AIが爆発的な経済成長や人間の寿命延長の大幅な進展といった変革的な影響を世界に及ぼし始めるまでの間に、AIに対する世論はおそらく大きく変わる、と認識することが重要だと考える。この変化が起こるのは、AIがその段階に達するころには、社会がすでに、労働者を大規模に置き換える破壊的な自動化の波を何度も経験しているからだ。したがって、AIに対する世論が、変革的なAIの直前まで、あるいはその後まで、現在とおおむね同じままだと想定するのは誤りだと考える。

第三に、個人の観点からは、AIがAIの研究開発の過程を担った直後に人間の労働が一挙に不要になる未来を予想するよりも、AIが数年、あるいは数十年かけて少しずつ仕事を担っていく未来に向けて計画し、投資する価値があると考える。AIの研究開発が再帰的に進んでAIが超知能へと爆発する比較的突然の出来事を想像するよりも、経済の完全な自動化へのより滑らかな移行を予想するほうが建設的だと私たちは考える。

私たちの見方では、AIが一部のタスクで人間を上回る一方、それと補完的な他のタスクでは人間に劣ったままという期間が、長く続く可能性が高い。はっきりさせておくと、AIがいずれ経済的に価値のあるほぼすべての活動で人間を上回り、それが経済成長の大幅な加速につながることには私たちも同意する。しかし、それが起こるのはおそらく、研究開発部門にとどまらずはるかに広く及ぶ、ますます広範で破壊的な自動化が数年から数十年続いた後のことだと考えている。

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非公式の日本語訳公式ページ(英語):epoch.ai/gradient-updates/most-ai-value-will-come-from-broad-automation-not-from-r-d