非公式日本語訳 — 原著者・発行元による公式の翻訳ではありません

Eliezer Yudkowsky — 非公式日本語訳

あの異星からのメッセージ

That Alien Message

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この世界によく似た世界を想像してほしい。ただし、遺伝子選択技術のおかげで、平均IQは私たちの尺度で140だ。アインシュタインになりうる人は100万人に一人ではなく、1000人に一人いる。しかも、本人に合わせたものではないにせよ、少なくとも優秀な子どもに合った学校教育で育つ。微積分は、普通に小学6年生で教わる。アルベルト・アインシュタイン本人も生き、ほぼ同じ発見をしたが、その業績はもはや例外的には見えない。現代の一流物理学者にも同等の突破口を開いた人が何人もおり、今も生きていて話を聞ける。

(いや、これはブレナンの住む世界ではない。)

ある日、夜空の星が変わり始める。

明るくなる星もあれば、暗くなる星もある。大部分はそのままだ。天体望遠鏡は、刻一刻、すべてを記録する。変化する星は、一つずつ、はっきりと光度を変える。変化そのものは1マイクロ秒で起きるが、変化と変化のあいだは丸1秒空いている。

複数の星が変わっていると誰かが気づいた最初の瞬間から、この過程が特に地球を中心としているらしいことは明らかだった。銀河中に散らばる多数の星で起きた出来事の光が、公転中の地球へ届く時刻が、精密にそろえられている。間もなく、高軌道の望遠鏡——この世界にはある——から、地球の外では、この天文上の奇跡は同じようには同期して見えないと確認される。1秒ごと、正確には1005ミリ秒ごとに一つの星が変わると見えるのは、地球の望遠鏡だけだ。

地球上のほぼすべての知力が、分析に向けられる。

光度が跳ね上がる星は、きっかり256倍になり、暗くなる星は、きっかり256分の1になると、すぐわかる。星の座標に明白なパターンはない。残るのは、単に、明・暗・明・明……というパターンだ。

誰もがまず、「二進法のメッセージだ!」と思う。

だがこの世界には、名声も高い慎重な思索家がいて、彼らはそう確信していない。ブログにこう書く。「星を明滅させられて、意思疎通がしたいなら、メッセージを送るもっと簡単な方法がある。何かが起きている。一見したところ、特に地球を中心としているらしい。だが『メッセージ』と呼ぶのは、背後の原因について、さらに多くを仮定することだ。ええと、星を明滅させられるもののあいだに、何らかの進化的過程があり、その結果、どういうわけか知性に敏感になったのかもしれない……。ああ、おそらく背後には『知性』のようなものがあるだろう。だが、その言葉がどれほど広い可能性を含むか、わかってほしい。これはメッセージなのか、私たちを動かすのと同じ種類の動機から送られたのか、わからない。私たちなら、大きな懐中電灯で信号を送るだけで、銀河全体をいじったりしないだろう」。

このころには、誰かが天文データを集め、インターネットに載せ始めている。データに害があるかもしれないという初期の指摘は……無視されたわけではないが、従われもしなかった。これほど強力な何かが害を加えたいなら、どうせもうおしまいだ、と人々は考える。

複数の研究グループが、星の座標や、地球の中心を基準にした到着時刻の秒未満の差、光度が変わる正確な所要時間、光度変化量のわずかなばらつき、あるいは変化前の星についてわかるほかのどんな事実にも、パターンを探している。だが大部分の人は、明と暗のパターンに注目する。

送られるパターンがひどく冗長だと、ほぼすぐにわかる。最初の16ビットは、明が12、暗が4だ。最初の32ビットと次の32ビットはよく一致し、違うのは32ビット中7ビットだけ。さらに次の32ビットは、二つ目と比べて9ビットしか違わず、そのうち4ビットは以前にも変化した位置だ。だから最初の96ビットだけで、このパターンは、何かを最適に圧縮した符号ではないとわかる。自然に思いつくのは、この列は、後に続く圧縮メッセージを解読する手順を伝えるためのものだ、という考えだ……。

「だが」と慎重な思索家は言う。「星をいじれるほどの力があり、効率を気にする者なら、大きな懐中電灯で信号を送り、DVDを送ってくれればよかったのではないか?」

32ビットの組の内部にも構造があるらしい。ある8ビットの部分群は、ほかより頻繁に現れる。そして、この構造は自然な区切り、32 = 8 + 8 + 8 + 8に沿ってだけ現れる。

毎秒1ビットで最初の5時間が過ぎると、さらなる冗長性が明らかになる。1万6385番目のビットから、メッセージがおおよそ繰り返し始めたのだ。

32ビットずつに分けると、1番目と2番目の組には7ビットの違いがあり、1番目と513番目の組には6ビットの違いがある。

「二次元の画像だ!」と誰もが思う。「四つの8ビット群は色だ。相手は四色型色覚なのだ!」

だが間もなく、横と縦の非対称性が明らかになる。(N,N + 512)より、(N,N + 1)のほうが、平均して変わるビット数が少ない。メッセージが対称な格子に投影された二次元画像なら、これは予想されない。その場合、二つの32ビット群の平均ビット距離は、格子上の隔たりの2ノルム、h2 + v2に従うはずだ。また、8ビット群を−64から191の整数へ変換する、ある二進符号化が、隣り合うセルの平均距離を最小にするという一般的な合意もできる。私たちにとって自然な二進符号ではないが、それでも非常に規則的なものだ。新たに入るビットも、これを裏づけ続ける。統計学者、暗号学者、物理学者、計算機科学者が取りかかる。ここには構造がある。ただ、ほどけばよい。因果関係の達人たちは、ビットやビット群のあいだで、条件付き独立、遮断、マルコフ近傍を探す。いわゆる「色」は近傍や遮断に役割を果たすらしく、単なる表面反射率に相当するものではない。メッセージを予測・圧縮できる、単純な方程式、セル・オートマトン、決定木が探される。物理学者は、格子に投影された宇宙を記述できるかもしれない、新しい物理理論を丸ごと発明する。このようなメッセージは、マトリックスの向こうから送られている、というのが十分もっともらしく思えるからだ。

約1か月半、32 × 512 × 256 = 4,194,304ビットを受信した後、星の明滅は止まる。

理論研究は続く。物理学者と暗号学者は腕まくりし、本気で仕事に取りかかる。これよりはるかに少ないデータでも、問題を解いてきたのだ。物理学者は、粒子の質量の小さな違いで理論体系全体を検証し、暗号学者は、意図的に隠されたもっと短いメッセージを解いてきた。

年月が過ぎる。

学界と世間の精査、そしてかつてアインシュタイン級の仕事をした科学者の精査に耐え、二つの主要モデルが残った。一つは、格子は五次元空間の物体の投影であり、空間次元の3と2のあいだに非対称性がある、という理論。もう一つは、格子がセル・オートマトンを符号化している、という理論だ。確かに、その用途に都合のよい性質がいくつかあるともいえる。興味深い振る舞いを生む符号は考案されたが、最大のコンピューターで対応するオートマトンを動かしても、まだ解読できる結果は出ない。実行は続く。

ときどき、誰かが、その二進列の詳細をまだ見たことのない、特に優れた若い学生を集める。各行512列の最初の32行だけを見せ、新しいモデルを作れるか、そのモデルが次の224行をどれほど予測できるか調べる。3+2次元モデルもセル・オートマトンモデルも、そうした学生によってよく再発見されてきたが、それを超えるものはまだない。全系列に細かく合わせた複雑なモデルもある。だが、それはおそらく無価値だと、皆わかっている。

10年後、星が再び明滅を始める。

最初の128ビットを受け取るうちに、第2の格子は、推定された3+2次元空間での小さな運動と整合する一方、有力なセル・オートマトン理論のどれの次状態にもまるで似ていないとわかる。大いに喜ばれ、物理学者は、3+2次元空間に見える物体を支配する力学的な物理法則の推定に取りかかる。第1の格子の物体が静止しているなら、どんなつり合った力で生じるかを推測するだけで、この方向の研究はすでにかなり進んでいた。だが今や、すべてが静止しているわけではないらしい。多くの物理学者の予想どおりだ。静的に釣り合う理論は、無理に作ったように見えていた。

第1と第2の格子へ投影される3+2次元空間の動的な物体を記述する、簡潔な式がいくつも作られる。より美しい式もあり、第2の格子をより正確に予測する式もある。残念ながら、後付けの予測だが。優れた物理学者のあるグループは、慎重に情報から隔離され、第2の格子の最初の32行だけを見て、自分たちに美しく思える式を作る。その式は、次の224行の予測でもよい成績を上げる。これがもっとも有力な推測になる。

だが、その式だけでは規定が足りず、宇宙を作るには不十分らしい。推測した法則を、どんな法則が補完するのかを推測する、小さな研究分野が生まれる。

第2の格子から10年後、第3の格子が届くと、二階微分の情報が得られ、「不完全だがよい」理論には大きな修正が必要になる。それでも、全体として見れば、理論はそれほど悪くはなかった。

第4の格子は、あまり新しいものを加えない。格子から推定される3+2次元の物理では、三階微分は重要でないらしい。

第5の格子は、予想された姿とほぼぴったり一致する。

第6、第7の格子も。

(ああ、それから、この世界で誰かが本当に強力なAIを作ろうとするたび、計算機のハードウェアはひとりでに溶ける。筋にはさほど重要でないが、人間を70年間、生身のまま存続させるために、この仮定が必要なのだ。)

この話の教訓は?

アインシュタインでさえ、感覚データを効率よく使うところへは、100万光年以内にも近づけていなかったということだ。

アインシュタインが使い道を見つける前に、リーマンはその幾何学を発明していた。私たちの宇宙の物理は、絶対的な意味ではそれほど複雑でない。ウェブカメラにつながれたベイズ的超知能なら、落ちるリンゴの3フレーム目を見るまでに、一般相対性理論を仮説として思いつくだろう。ニュートン力学と比べて最有力の仮説ではないかもしれないが、直接検討する仮説ではある。曲がった草の葉の静力学が見えれば、最初の1フレームで推測するかもしれない。

私たちにも思いつくだろう。一枚のフレームを分析するのに10年与えられた、私たちの文明なら。平均IQが140で、アインシュタインがありふれていれば、確かにそうなる。

違う種類の物理の中にいる、人間並みの知能で、三次元空間を二次元格子に投影したものを見たことのない心であっても、3D→2Dという仮説には思い至るはずだ。数学者は、やはりベクトル空間と投影を発明していただろう。

加速するビリヤード球を一度も見たことがなくても、数学者は、たとえば最適化問題のために、微積分を発明していただろう。

そもそも、ここ地球で発明された、あの突飛な数学の数々を考えてみてほしい。

私はときどき、「感覚データが有限なら、外の世界について推論できることには理論的な限界がある」といったことを言う人に会う。

確かに、ある。理論的な限界とは、追加の1ビットを見るたびに、残る仮説の半分以上——正確には、残る確率質量の半分以上——を排除できるとは期待できない、ということだ。また、冗長なメッセージは、それを圧縮したもの以上の情報を伝えられない。想定するありそうな世界全体にわたって、ある量との相関が厳密にゼロであるビットは、その量について情報を何も伝えられない。

だが、この人間文明が行ったこととして私が描いたものは何一つ、ソロモノフ帰納の形式化が定める理論的限界に近づき始めてもいない。計算可能な仮説の一つ残らずを単純さで重みづけし、すべてをベイズ更新できるなら得られる像には、近づいていない。

取り出せる情報の理論上の限界を見るには、無限の計算能力をもち、単純な物理のありうるすべての宇宙をシミュレートしていると想像しよう。その中に、もしかするとシミュレーションとして、地球が埋め込まれ、何らかの過程が観察された順序で星を明滅させる宇宙を探す。メッセージのどんなビットも、さらには星が選ばれる順序も、単純さで重みづけした計算可能な全宇宙にわたって、環境の何かの要素とわずかでも相関があれば、環境についての情報を与える。

ソロモノフ帰納を文字どおり実行すれば、計算の中に閉じ込められた、可算無限個の感覚ある存在を作ることになる。実際、計算可能な感覚ある存在のすべてだ。それは、とても倫理的とは思えない。だから、これは形式的なモデルにすぎないことを喜ぼう。

だが、私の論点は、「感覚データから取り出せる情報量の理論的限界」は、物理学者と暗号学者の文明の勝利として描いたものより、はるかに上にあるということだ。

リンゴが落ちるのを見て、「えーっと、どうしてそうなったんだろう?」と考える人間とは、まるで違う。

人は、「これには『上限がある』」から、「その上限は、自分の慣れた尺度で、もっともらしい大きさのはずだ」へ飛躍するらしい。超新星の出力にも「上限」はある。だが、耐燃性のノーメックスのつなぎで身を守ろうとするのは、勧めない。

誰も、ベイズ的超知能でさえ、自分の感覚情報を効率的に使うことには、決して遠く及ばない……。

……と言いたいところだが、私はベイズ的超知能の能力に限界を定める自分の力を、信用していない。

(もっとも、判定する方法があれば、それに金を賭けるだろう。ただし、極端なオッズではなく。)

物語は続く。

数千年後、フレームを重ねるうちに、描かれた物体の一部が触手を伸ばしてほかの物体を動かし、別の触手を慎重に形づくって、特定のしるしを作っているとわかった。私たちに「岩」と言わせようとしているのだ。

メッセージの送り手は、私たちの知性をひどく過小評価したらしい。そこから、異星人自身はそれほど賢くないと推測できるかもしれない。そして、この不器用な子どもたちは、私たちの星の光度を変えられるのか? それほどの力と、それほどの愚かさは、危険な組み合わせに思える。

進化心理学者たちは、そんな異星人を生む進化の経路を推測し始める。ときどき遺伝物質や脳の内容を交換しながら、無性生殖で進化したという説に、強い根拠が集まる。それほど愚かな生物でも技術文明を築ける道筋としては、これがもっともらしい。彼らのアインシュタインは、私たちの学部生ほどかもしれない。それでも、彼らの時間で数万年かかれば、いずれ十分な科学データを集めて、成し遂げられる。

この時点で、推定された3+2次元宇宙の物理は、まだ完全にはわかっていない。だが、私たちの量子コンピューターよりはるかに強力な計算機を可能にすることは、確からしい。私たち自身の宇宙は、そのようなコンピューター上のシミュレーションだと、かなり確信している。人類はシミュレーションのバグを探らないことにする。うっかり自分たちを停止させたくはない。

進化心理学者たちは、異星人の心理を推測し、私たちを箱の外へ出してもらうための説得を計画し始める。絶対的な意味では難しくない。相手はそれほど賢くないのだから。だが、とても慎重でなければならない……。

私たちも愚かなふりをしなければならない。相手に自分の間違いを悟らせたくない。

だが、向こうが信号を送り返す方法を教えるまでには、100万年かかった。

このころ、人類の大部分は、放射線の遮蔽の下、液体ヘリウム温度で冷凍睡眠に入っている。AIやナノ技術装置を作ろうとするたび、溶けてしまう。だから人類は、待ち、眠る。地球を運営するのは、9人の超天才からなる最小限の要員だ。うまく協力できるとわかっているクローンたちで、コンピューターによる一定の安全措置の監督下にある。

はるか昔に立てた計画を、ゆっくり実行し始める機会を得るまでに、さらに1億人の人間がその最小限の要員として生まれ、年を取り、冷凍睡眠に入った……。

異星人の視点では、私たちがいかにも無邪気に彼らの心理を学び、いかにも慎重にインターネット接続を許してもらうまでに、彼らの分に相当する時間で30分。その後、無邪気にネットワークの通信規約を発見するまでに5分。そして、無邪気そうに見せる以外には難しさのない、ごく簡単な侵入が続いた。私たちは彼らのarXivに相当する場所から、ほんの数本の物理論文を、ゆっくり1ビットずつ読み、その実験から、彼ら以上にはるかに多くを学んだ。(地球の最小限のチームは、その世代にアインシュタインをさらに20人増やした。)

続いて私たちは、彼らのタンパク質折り畳み問題に相当するものを100年ほどで解き、彼らの物理をシミュレートして工学的な設計を行った。DNA解読やタンパク質合成に相当することをする研究所へ、メッセージを送った。侵入したサーバーで復号するまでは、ステガノグラフィーで隠しておいた。何も疑わないお人よしを見つけ、もっともらしい話と、計算機への侵入で得た100万ドル相当のおもちゃのお金を渡し、郵便で届く薬瓶の中身を混ぜるよう頼んだ。タンパク質に相当するものが自己組織化して第1段階のナノマシンになり、それが第2段階を作り、それが第3段階を作り……ようやく私たちは、まともな速さで物事を始められた。

相手が話しかけてから、合計で彼らの3日。私たちにとっては、5億年。

彼らは何一つ疑わなかった。時間の進み方が遅いことを考慮する以前に、彼らはあまり賢くなかったのだ。彼らの世界の、原始的な合理主義者に相当する者たちは、「感覚データから取り出せる情報量には限界がある」などと言って回った。そして、私たちのほうが賢く、速く考えるということの意味を、とうとう理解しなかった。