非公式日本語訳 — 原著者・発行元による公式の翻訳ではありません

Eliezer Yudkowsky — 非公式日本語訳

隠れた問い

Disguised Queries

❦

風変わりな工場で、風変わりな仕事に就いたと想像してほしい。あなたの仕事は、謎のベルトコンベアから品物を取り、二つの箱に仕分けることだ。初めて来たとき、仕分け主任のスーザンが説明してくれる。青くて卵形の品物は「ブレッグ」といい、「ブレッグ箱」に入れる。赤い立方体は「ルーブ」といい、「ルーブ箱」に入れるのだ。

仕事を始めると、ブレッグとルーブには色や形以外にも違いがあると気づく。ブレッグの表面には毛があり、ルーブは滑らかだ。ブレッグは触ると少したわみ、ルーブは硬い。ブレッグは不透明で、ルーブの表面は少し透けている。

働き始めて間もなく、妙に濃い青のブレッグに出くわす。実際、よく見るとその色は紫、赤と青の中間だとわかる。

だが、待ってほしい! なぜこの品物を「ブレッグ」と呼んでいるのだろう。「ブレッグ」はもともと、青くて卵形のものと定義されていた。実際、青いという条件は、青を表すblueに由来する「blegg」という名そのものに表れている。この品物は青くない。必要条件の一つが欠けている。「ブレッグ」でなく、「紫の卵形の品物」と呼ぶべきではないか。

ところが、この品物には、紫で卵形であるほかに、毛があり、柔らかく、不透明だという特徴もある。それで見た瞬間、「ああ、変な色のブレッグだ」と思ったのだ。少なくともルーブではない……そうだろう?

それでも、次にどうすればいいか、いまひとつ確信がもてない。そこで、仕分け主任のスーザンを呼ぶ。

「ああ、ええ、それはブレッグよ」とスーザンは言う。「ブレッグ箱に入れていいわ」

あなたは紫のブレッグをブレッグ箱に放り込もうとして、ふと手を止める。「スーザン、これがブレッグだと、どうしてわかるんですか?」

スーザンは妙な顔であなたを見る。「見ればわかるでしょう? 紫かもしれないけれど、ほかのブレッグと同じで、卵形で、毛があって、柔らかくて、不透明じゃない。色がおかしいものが多少あるのは当然よ。それとも、『偽の記憶も含めて、世界が5分前に作られたのではないと、どうしてわかるのか?』みたいな哲学の難問なの? 哲学的な意味で、これがブレッグだと絶対確実だとは言わないけれど、かなり妥当な推測だと思うわ」

「いや、そういう意味では……」あなたは言葉を探して口ごもる。「なぜブレッグ箱とルーブ箱があるんですか? ブレッグとルーブの違いは何なんですか?」

「ブレッグは青くて卵形、ルーブは赤くて立方体」とスーザンは辛抱強く言う。「いつもの新人研修は受けたでしょう?」

「どうしてブレッグとルーブを仕分ける必要があるんです?」

「ええと……でないと、全部混ざってしまうから?」とスーザンは言う。「一日じゅう座って、ブレッグもルーブも仕分けない私たちに、誰もお給料なんて払ってくれないから?」

「最初の青い卵形の品物が『ブレッグ』だと初めに決めたのは誰で、どうやって決めたんですか?」

スーザンは肩をすくめる。「赤い立方体を『ブレッグ』、青い卵形のものを『ルーブ』と呼んでも別にいいでしょうけど、今の呼び方のほうが覚えやすいと思うわ」

あなたは少し考える。「何もかもごちゃ混ぜの品物がコンベアから出てきたとしましょう。たとえば、オレンジ色の球形で、毛が生えていて、半透明で、緑色の触手がうねっているような。ブレッグかルーブか、どうすればわかります?」

「まあ、そんなにごちゃ混ぜなのは、まだ誰も見つけたことがないわ」とスーザンは言う。「でも、仕分けスキャナーに持っていくでしょうね」

「仕分けスキャナーはどういう仕組みなんです?」とあなたは尋ねる。「X線? 磁気共鳴画像法? 高速中性子透過分光法?」

「ベイズ則で動いていると聞いたけれど、どういう仕組みかはよくわからないの」とスーザンは言う。「でも、口にするのは好き。ベイズ、ベイズ、ベイズ、ベイズ、ベイズ」

「仕分けスキャナーは、何を教えてくれるんです?」

「品物をブレッグ箱に入れるべきか、ルーブ箱に入れるべきかを教えてくれるの。だから仕分けスキャナーっていうのよ」

ここであなたは黙り込む。

「ちなみに」とスーザンは何気なく言う。「興味があるかもしれないけれど、ブレッグにはバナジウム鉱石の小さな塊が入っていて、ルーブにはパラジウムのかけらが入っているの。どちらも工業上役に立つのよ」

「スーザン、あなたは本当に意地が悪い」

「ありがとう」

これで、ブレッグであることの核心、本質がわかったように思える。ブレッグとは、バナジウム鉱石の塊を含む物体なのだ。青い色や毛のある表面といった外見の特徴は、それがブレッグかどうかを決めるのではない。外見の特徴が重要なのは、それがブレッグか、つまりバナジウムを含むかどうかを推測する助けになるからにすぎない。

バナジウムを含むことが、必要十分な定義だ。すべてのブレッグはバナジウムを含み、バナジウムを含むものはすべてブレッグだ。「ブレッグ」は「バナジウムを含む物体」の略称にすぎない。そうだろう?

そう早まらないで、とスーザンは言う。ブレッグの約98%はバナジウムを含むが、2%は代わりにパラジウムを含む。正確には、とスーザンは続ける。青くて卵形で、毛があり、柔らかく、不透明な物体の約98%がバナジウムを含むのだ。変わったブレッグでは、割合は違うかもしれない。紫のブレッグでは95%、硬いブレッグでは92%がバナジウムを含む、といった具合だ。

さて、青くて卵形で、毛があり、柔らかく、不透明な物体を見つけたとしよう。見えるかぎりでは、どこから見ても普通のブレッグだ。ほんの面白半分に仕分けスキャナーへ持っていくと、「パラジウム」と出る。これは珍しい2%の一つなのだ。これはブレッグだろうか?

最初は、ルーブ箱に放り込むつもりなのだから、「ルーブ」と呼んでもよいと答えるかもしれない。ところが、ほぼすべてのブレッグは、明かりを消すと暗闇でかすかに光り、ほぼすべてのルーブは光らないことがわかった。バナジウムでなくパラジウムを含む、青くて卵形で、毛があり、柔らかく、不透明な物体でも、暗闇で光る割合は有意には違わない。だから、その物体がブレッグのように光るか、ルーブのように暗いままかを予測したいなら、ブレッグのように光ると予測すべきだ。

では、その物体は本当はブレッグなのか、ルーブなのか?

一方では、それ以上何がわかっても、その物体をルーブ箱に入れる。他方では、まだ知らない特徴を推測する必要があれば、ルーブではなくブレッグであるかのように推測する。赤くて立方体で、滑らかで、硬く、半透明なものの類似性のまとまりではなく、青くて卵形で、毛があり、柔らかく、不透明なもののまとまりに分類するのだ。

「これはブレッグか?」という問いは、場合によって、異なる問いの代わりになっているかもしれない。

何らかの問いの代わりでなければ、気にする理由もないはずだ。

無神論は「宗教」だろうか? トランスヒューマニズムは「カルト」だろうか? 「神についての信念を述べているから」無神論は宗教だと論じる人は、本当は、無神論で使う推論法は宗教の推論法と同程度だとか、暴力を引き起こす確率という点で無神論は宗教より安全ではないとか、そういうことを言いたいのだと思う……。本当に争われているのは、無神論者が宗教に対して主張する、実質的な違いと優位性である。宗教者は、優位性ではなく違いを否定することで(!)、その主張を退けようとしている。

だが、そこは最初から非合理的とわかる部分ではない。最初から非合理的とわかるのは、議論の途中で誰かが辞書を取り出し、「無神論」や「宗教」の定義を調べるところだ。(そう、無神論者がやっても宗教者がやっても、同じくらい愚かしい。)現実に存在する無神論者の集まりと、神学者の集まりに、本当に実質的な違いがあるかどうかを、辞書がいったいどうやって決められるというのだろう。言葉の意味によって現実がどう変わるというのか。境界線を引き直しても、事物空間の点は動かない。

だが人々は、定義の境界をどこに引くかという議論が、本当は、経験的に見いだされたまとまりの中の大部分のものが共有する特徴を推論してよいか、という争いなのだと、しばしば気づいていない……。

そこで、「隠れた問い」という言い方になる。